XR技術を活用した ビジネス向けコンテンツの最前線

株式会社ビーライズ

広報

藤田大地氏

株式会社ビーライズ

広報

高原千明氏

VRXR教育

VRやメタバースといった言葉はよく目にするものの、実際に体験したことのある人は、まだ少ないのではないだろうか。しかしそれほど遠くない未来、私たちの暮らしやビジネスの現場で活用される技術なのは間違いない。広島を拠点とする株式会社ビーライズは、そんなデジタル技術のスペシャリスト集団。VRを使った体験型ジョブトレーニングなど、ユニークなコンテンツ開発で注目されている。そこでビーライズ社広報担当の藤田大地さんと高原千明さんに、VR技術の現在や今後の見通しなどについてお話を伺った。

左:高原千明さん 右:藤田大地さん

建築用パースの制作から、XR分野に参入

現実世界と仮想世界を融合する先端技術を総称してXR(クロス・リアリティ/エクステンデッド・リアリティ)という。細かくはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)という各技術があるが、それらの違いは少しわかりにくい。まずは簡単にご説明いただこう。

VR(ヴァーチャル・リアリティ)は仮想現実と訳されますが、目のまわりをゴーグルなどで覆って、仮想の空間を体験する技術です。
次にAR(アグメンテッド・リアリティ)ですが、よく見かけるのはスマホのカメラ機能などを使うことで、画面上に追加の情報を表示するものです。ゲームなどで現実空間にキャラクターがいるように見せる、あの技術ですね。
さらにMR(ミックスド・リアリティ)ですが、これは少しARと重なる部分があります。専用の透明なサングラスのようなものを使って、現実世界に情報を表示していく。カメラなどを介さず、現実に情報を追加するのがMRです」

 

2012年に創業したビーライズ社は、こうしたVRやARなどの技術をベースに、企業向けにさまざまなサービスを提供している。同社のこれまでの歩みは、どのようなものだったのだろうか。

「弊社はもともとマンションのパースなど、建築関係のCGをメインに制作しておりました。CGを作れるということは、仮想空間も作れるということで、新しく出てきたデバイスに合わせてVRコンテンツを制作したり、スマホを使ったARコンテンツを制作したりといった仕事を増やしていきました。
スタートとしては建築業から始まったのですが、機材などが安価になっていくに従って、製造業をはじめとしたお客様から依頼をいただき、トレーニングで使うコンテンツ制作といった業務が増えていったのです」

ビジネスの現場におけるXR活用例

一般的にはゲームなどのイメージも強いVRやARだが、実際のビジネスにおいて、どのような形で用いることができるのだろうか。

「基本的にXR技術は、普通では見えないものを体験してもらうのが得意な分野です。例えば、初心者がいきなり行くと危ない作業現場などですね。VRで先に危険な体験をしておくことで、現場で事故が起きにくくすることができます。あるいは医療関係のトレーニングなどですね。また、インテリア業界でARを使って家具を配置したり、最近ではSNSやビデオプラットフォームなどで使われたりもしています。
それから昨今よく耳にするメタバースもそうですね。例えば学習分野では、これまではどこかに人を集めて学習していましたが、どうしても移動の手間がありますし、コロナ禍による問題も出てきました。各拠点にヘッドマウント・ディスプレイがあれば、それをかぶるだけで同じ空間に入れる。たとえ遠隔地であっても、仮想空間に集まれる。そういう形で、大手学習塾などがメタバースを活用し始めています。
とはいえ、VRがあれば教育がすべて上手くいくかというと、それは違う話です。当初はすべて置き換えられるのではないかという話もあったのですが、やはりなかなかそうはなりません。現在ではVRの得意な分野を活用して、教育の精度を上げるという形に落ち着いています」

 

人手不足が深刻な建設業界でも、トレーニングなどの需要はありそうだ。建設業界で実際に使われている事例、あるいはこれから使われていきそうなケースには、どのようなものがあるのだろうか。

「やはり危険防止ですとか、現場の作業を効率化する形が多いと思います。まだ実験段階の技術ですが、例えば内装業ですと、MRグラスを付けたら画面越しに割付が表示され、あとはそこにドリルを打つだけで正しいピッチになる、といったことが考えられるでしょう。ただ、どうしても現実空間とのズレが出て、まだミリ単位の精度まではいっていません。
ゼネコンさんなどは今、そうした分野に力を入れてきています。時間短縮、省力化に向けた実務レベルでの補助ですね。MRグラスを身に付けるだけでガイド線が出る、図面が表示されるといったことを研究されていると思います。
やはり実践で使えるものとなると、各現場で状況も違いますし、正確性の面で難しい部分があります。この角度で、この位置でというのが決まっていればピタリと合わせられるのですが、他の現場ではまた状況が変わってきますから。エンターテインメントとは異なり、BtoBではそのあたりの精度が重要になります。まだまだハードルは高いと思います。
また、VRでは手先の動作まで覚えるトレーニングは難しく、あくまでも仕事の手順を覚えるのに向いています。トレーニングの環境を作る準備が必要なく、2mくらいの広さがあれば学習できてしまいます。そうした反復練習には向いていますね」

リアルなVR体験と、普及への課題

今後、私たちの暮らしの中で、XR技術はどのような広がりを見せていくのだろうか。また、これまであまり接点のなかった中小規模の会社は、この技術とどのように付き合っていくべきなのだろうか。

「例えばメタバースなどは、より多くの一般ユーザーが楽しめるようになり、多くの企業がそこで打ち合わせをする、というような状況にはなるでしょう。やろうと思えば何でもできる一方で、そこまで広がらない可能性もあるというのが現状だと思います。
弊社としても、XR領域をさらに広げていきたいとは思っていますが、流行り廃りが激しいので、中長期的にどうなっていくかはわかりません。ただ、すでに弊社のVRを導入しているような、先進的な分野には今後も注力していきたいと思います。
小規模な会社にとっては、まだまだVRはハードルが高いと思われるかもしれません。でも最近では、YouTubeなどでも気軽に体験できるようになっています。まずはそうしたところから試していただいて、業務改善に向けた活用方法を探っていただくのが現実的だと思います。まずは試していただくことが最初かなと思います。
ハードに関しても、スタンドアローン型(それ単独で機能するもの)のVRデバイスも次々に出てきており、2、3万円で買うことができます。これまではすべて揃えるのに数十万円のコストがかかりましたが、そういう意味では、ハード面の制約はほぼなくなってきました

 

実際に倉庫作業におけるVR危険シミュレーターを体験させていただいた。ヘッドマウント・ディスプレイを付けるとリアルな仮想空間が広がり、まさにその場で作業しているような感覚がある。プログラムの一環として脚立から落ちるシーンを体験するのだが、本当に落ちるような恐怖感があり、思わず足元がふらついてしまったほど。ビーライズ社では、こうした研修・教育用コンテンツのパッケージを販売するとともに、各企業にカスタマイズした形で幅広く提供している。ユーザーからの反応はどうだろうか。

「例えば、フォークリフトの事故体験コンテンツがあります。もともとはフォークリフトの免許を持っている方のトレーニング用なのですが、あえて免許のない方に体験していただいて、動きを知ってもらうということにも使われています。フォークリフトのある現場で働いていても、免許のない人は動きがわからないんですね。VRなら免許は要りませんから、普段はやらない、できない作業を体験してもらうことができます。
手順を学ぶトレーニングに関しては、いつどこに集まって……という、時間の縛りがなくなったのが大きいという声が聞かれます。また、若い方などは特にそうですが、これまでのような座学と動画だけではやはり飽きてしまう。そこにVRを入れることで、学習意欲を高めることができるようです。今までと違う体験ができるので、取り組む姿勢が変わってくるというお話を聞いています。ゲーム世代の若い方なら、操作もすぐに覚えてしまいますからね」

無理に手を伸ばそうとすると…
転倒

 

VR分野における今後の課題はなんだろうか。

「現在こうしたVRコンテンツを導入いただいているのは、製造業、医療分野、学校関係が多いです。医療分野に関しては、コロナ禍による影響もあって病院でのトレーニングができない中で、VRでうまく補完できないかを模索しています。トレーニングの結果はすべてログデータとして残るので、AIなどと組み合わせながら、そうしたデータを分析するのは有効な手法だと思います。そのためには、まだ分母となるデータが少ないので、数を増やしていく必要があります。
やはり『VRという言葉は知っているけど、体験したことはない』という人が、まだほとんどですよね。もっと普及させるためには、何かしら体験できる機会を増やし、裾野を広げる必要があります。実際に体験した人が増えれば、技術を応用するアイデアも出てきますし、まったく新しい需要も生まれてくるはずです」

BeRISE VR安全シミュレータ PV2019

意外と身近なところで目にしているXR技術。実はこの「軽天屋さんポータル」で体験できる天井耐震診断体験動画も、ビーライズ社が制作を担当したVRコンテンツだ。ただ、やはりヘッドマウント・ディスプレイを使ったVRの没入感は、実際に体験しないと伝わりにくい。気になる方は、身近なところからトライしてみてはいかがだろうか。

取材協力

株式会社ビーライズ

2012年、広島を拠点に設立。VR・AR、CGの技術を生かし、クリエイティブなコンテンツ制作を行う。非接触のバーチャルイベント、仮想空間での次世代型トレーニングなど、これまでにない体験コンテンツの開発・実装に定評がある。

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