ロボットと音声認識AIが世の中の常識を変えていく

ユニロボット株式会社

代表取締役

酒井 拓 氏

AIロボット

表情豊かに人と会話するロボットの誕生は、私たちが描いてきた夢のひとつ。「鉄腕アトム」や「ドラえもん」とはいかなくても、AIやIoTといった言葉には、そんな未来を予感させる魅力がある。ユニロボット株式会社は、まさにその最先端を担うベンチャー企業。個性を学習するコミュニケーションロボット「ユニボ」と、そこから派生したクラウドサービスを展開し、国内外から注目される存在だ。代表取締役の酒井 拓さんに、ロボットやAIの現状と今後、そして建設業界への影響などについて詳しくお話を伺った。

ドラえもんのような
ロボットを作りたかった

可愛らしい外見と高度な機能が特徴のコミュニケーションロボット「ユニボ」。まずはその誕生の経緯を、日本におけるロボット開発の現状や市場動向と合わせてお話しいただこう。

「開発当初の『ユニボ』のコンセプトは、まさにドラえもんのようなロボットを作りたいというものでした。そこで家庭向けを想定し、ユーザーの趣味趣向、好きな食べ物やスポーツといった生活習慣を学んでいく学習型ロボットを目指しました。
当時(2015年前後)は、ちょうど人型ロボットの『ペッパー』が発売されるなど、『ロボット元年』といわれていました。ただ、価格のこともあり、なかなか家庭向けの対話型ロボットとしては定着しませんでした。2017年頃にスマートスピーカーが登場し、少しずつ音声による対話型AIが広がっていますが、結果として『ユニボ』は法人向け、B to Bを中心に展開している状況です。マーケット全体を見渡しても、同じような流れがありました。
『aibo(アイボ)』などのペット型ロボットは、飼い主に合わせた行動変容が特徴です。対して『ユニボ』のようなコミュニケーション型ロボットは、会話による学習が特徴になっています。ですから、とくに家庭向けとしては、会話をすればするほど学んで成長していくことを、ユーザ―から期待されている部分があります。
ただ、膨大な学習量をAIに反映したり、会話を作成したりしていくには、それなりの投資が必要です。リソースが限られるスタートアップからすると、常に成長させていくというのは、非常にチャレンジングな領域なんですね。
さて、AIによる会話には、『こう言われたら、こう返す』というシナリオベースのものと、機械学習、ディープラーニングで学習させるものとがあります。『ユニボ』は自然言語処理と感情解析を搭載しており、両方の要素が含まれています。一般的に、機械学習の方式はデータ量が重要で、規模としては数万~数十万というデータ量を取りこまないと、精度が高い会話が難しいともいわれています。学習量が少ないままですと、想定外の言葉をロボットが発話してしまうことが実証でも見えておりますので、機械学習の方式と、シナリオベースの会話方式は、きちんと考えた上で設計・開発をして、導入していく必要があります。
とくにB to Bにおいては、受付やご案内用途など、お客様から聞かれたことに正しく回答しなければなりませんので、こういった場合はシナリオベースの会話方式が求められます。一方で、家庭向けはかしこまった言い回しより、より砕けた表現が求められます。毎回決まった返し方よりも、違った言い回しで、かつユニークに応答してほしいといったご要望が出てくるのです。つまり、B to B向け、B to C向けは、相反することが求められ、全方位で取り組む難しさがあります。

そういったことも踏まえ、当社としては、まずは法人向けにしっかりとビジネスを作ることに注力しております。今展開中の運送業界向けのロボット点呼ソリューション、教育機関向けのユニボ先生、ヘルスケア向けロボットサービス、IoT住宅向けロボットサービス等は、パートナー企業と共に年数をかけて育ててきました。今後とも、ロボットやサービスのバージョンアップを行い、より洗練したサービスに成長させていき、ロボットが当たり前の世界を目指して、挑戦をしていきたいと思っています」

活躍の場が広がる
コミュニケーションロボット

そもそも酒井さんはなぜロボット分野で起業したのだろうか。そして、どんな未来を思い描いているのだろうか。

「いずれモノと会話する時代が来ると思っていまして、私たちはそこに温かみをもたらしたいと考えています。『ナイトライダー(※AIを搭載した自動車が登場するアメリカの特撮テレビドラマ)』のような世界観ですね。IoTが広がっていく中で、そうした世界観が10年後以降には実現していくだろうと思います。そんなビジョンを描きながら、スマホ以降の新しいデバイスとして、有形資産であるロボットが入ってくる可能性があると考えました。
海外ではスマートスピーカーのように、ひとつの認識デバイスがキーコントロールとなって、電化製品等を制御していくスマートホーム化が浸透しています。国内をみると、スマートホーム化としてSwitchBot(スイッチボット)等が最近販売されていて、スマートフォンやスマートスピーカー等から遠隔操作や、音声操作ができるようになっており、流れとしては同じ方向に向かっていると思います。効率化の観点からしますと、色々なデバイスを使うより、統一された認識デバイスでコントロールできた方が、利用者にとってもハッピーですよね。
そうした大きな流れの中で、コミュニケーションロボットがIoTのコントロールハブになれるとも考えています。これまでも家庭向けにはさまざまなロボットが販売されてきましたが、当社としては、IoTマンション向けにパートナー企業と連携をして、『ユニボ』を新たに提供していきたいと考えています。例えば、ユニボには既に学習リモコンが搭載されていますので、エアコンの温度調整やカーテンの開閉など、赤外線リモコンでコントロールできるものはすべて制御できるようになっています。
これをさらに進めると、ユニボを介して在・不在の管理を遠隔で行えたり、子どもの勉強をサポートしたり、あるいはお年寄りのボケ防止に寄与するような『脳トレ』から、ビデオ通話を活用した見守り支援、薬の飲み忘れを防止するリマインドサービス等、まさに日常生活の支援にユニボが家族の一員として、組み込まれていく世界観を描くことができます。さらには、災害情報や、交通情報、住んでいる地域の情報を連携していくことで、家庭内外で、ユニボが幅広い世代の方のコミュニケーションハブにもなっていく。家庭向けとしては、そうした方向をパートナー企業とエコシステムを構築しながら、目指していこうと考えています」

法人向けとしては、現在どのような使われ方をしているのだろうか。

「法人向けには、パートナー企業と連携をして、よりサービスを特化していくという考えです。現在の軸としては4つあります。1つめは、教育分野における『ユニボ先生』というもの。小学1年生から6年生までの算数をすべて教えられるAIロボットは現状『ユニボ』だけで、プログラミング教育からカルタの読み上げ、英語の歌を一緒に歌うなど、コンテンツについては順次拡充を図っています。とにかく子どもたちに人気で、ユニボ先生だったら頑張って勉強できる、といったお子さんも嬉しいことに増えてきています。ロボットが先生の補助役として活躍する世界が見えてきましたね。こうしたユニークなサービスを学童保育や個別学習塾などに展開しています。
2つめは運送業界向けで、『Tenko de unibo』というサービスです。トラックやバス、タクシー向けのロボット点呼(自動点呼)というテーマですね。現在の対面点呼は、実際の業務は人(運行管理者、同補助者)以外、法的に認められていません。これを、ロボットのみで点呼を行うことが可能となれば、運行管理者の労働負担を著しく軽減できます。この取り組みにおいて、2021年9月~11月にかけて、ユニボが国交省の自動点呼実証実験で唯一採用されました。現在(2022年1月時点)、全国約250カ所の運送事業所で導入されており、点呼業務支援ロボットとして、今後の広がりに期待しています。
3つめはヘルスケアです。じつはこの分野にはコミュニケーションロボットがあまり入れていません。まだ実用に耐えられるものが少ないんですね。私たちはパートナー企業と介護や在宅医療など個々の領域について検証してきたのですが、ひとつにはロボットと会話することがリハビリテーションになるようなサービスが実用化できると考えています。たとえば脳卒中で失語症になった患者さんがユニボと会話することで、ヘルパーさんを介さなくても、いつでも会話の訓練ができるといったものです。その他、ユニボから定期的に話しかけることもできますので、看護師の代わりに、非接触で患者さんとコミュニケーションを取ることや、バイタルセンサーと連携して、健康状態をチェックしていく等も可能です。ポスト・コロナ時代において、ヘルスケア領域でのロボット活用は、年々広がっていきそうですね。
4つめは、先ほどもお話ししたIoTマンション向けの住宅分野です。この4つの柱を中心として取り組んでいきたいと考えています」

業務効率化から新人教育まで
AIが当たり前になる近未来

内装工事店をはじめ、建設業界に向けてはどんな使い方が考えられるだろうか。

「ロボットの活用とともに私たちが取り組んでいるのが、AIを使った音声コミュニケーションです。音声認識を活用した対話型AIソリューションで、いわゆるボイスボットといわれている領域です。その代表事例として私たちは『AI電話』というサービスを開発、提供していますが、電話の自動化に留まらず、音声認識を利活用することで、さまざまな業務効率化が図れるのではないかと考えています。
たとえば内装工事の現場で会話していて、メモするのが難しいといった時に、ピンマイクを装着しておくだけで、文字おこしをしてくれます。たとえ一言一句を正確に文字起こしできなくても、キーワードを正しく拾ってくれさえすれば、十分なことも多いですよね。
その他にも、施工現場でビフォー/アフターの写真を撮る場面があると思いますが、その際のコメントをスマホなどに音声入力しておき、あとで文字にして提出することもできます。こうした技術から得られたデータは、すべてクラウドに格納されるのが主流になっていますので、いつでも自由に検索することも可能です。
このように、これまで手書きやPCでタイプしていたことを楽にしてくれるのが音声入力の魅力です。両手が塞がっているような作業中でも、音声なら問題ありませんよね。その他、最近現場で活用が進んでいるスマートグラスにおいては、音声で指示することで、ディスプレイ上に図面を表示させることができたりします。他にも作業の報告や指示など、音声とソフトウェアの組み合わせで業務効率化できる部分は調べていくと意外と多く出てくるのではないでしょうか」

音声認識のテクノロジーは、業務効率化だけではなく、各業界の共通課題といえる新人教育にも活用できそうだ。

「オペレーション部分での需要が増えており、マニュアルなどを音声で読み上げることで、外国人を含む新規従事者に伝えやすくなります。建設業や製造業もそうですが、熟練ワーカーにしかナレッジが溜まっていない状況があり、人の入れ替わりも激しい中で、どう教育・トレーニングしていくかが課題になっていますよね。
そうした課題解決の一助になるのが、音声アシスタント機能だと思います。知りたいことを音声アシスタントに質問すれば、その場で、音声で回答をしてくれる。知りたいことをすぐに教えてもらえるので、間違い防止にも役立ちますし、オペレーションコストも相応に下げていくことが期待できます。さらに多言語対応化ができれば、増加傾向にある外国人労働者のトレーニングにも大きく貢献してくれると思います。
データ解析の観点からしても、新しく入った方がどこでつまずいているかをデータ化、可視化し、追跡することも可能です。そうしたデータを解析することによって、オペレーションの向上に繋げることができます。こうした需要は潜在的に相当にありそうな気がしています。デジタル化の流れで、音声を使ったソリューションは、今後ますます面白い分野になっていきそうですね」

建設業を含むさまざまな業種で、実際に使われはじめている音声認識。今後はより身近なものになっていくという。

「音声認識は、すでに欧米でかなりの伸びを示しています。国内においても、音声認識の市場は2020年度が287億円でしたが、 2023年には1000億円を超えるといわれています。クラブハウスのような音声SNSが登場し、音声による広告も出てきています。またGアラートのような防災関係も、スマホで見るより音声の方が圧倒的に早いですね。
また、音声認識を活用したボイスボットという切り口でみてみると、私たちは、トレタ社と連携をして、『AI電話』を使って飲食店向けの予約受付を24時間自動化するサービスを開発、提供しています。お店の予約というのは、当日の電話が圧倒的に多いんですね。飲食店以外でも美容室やゴルフ場の予約、さらにはオフィスの電話受付も含め、24時間365日対応できるというのはすごいことだと思います。
電話を受けるだけでなく、かけることも自動化できます。たとえば保険の更新案内といったことに利用でき、人がやるより圧倒的にコストが安い。コールセンターのAI化は、まさに今、変革の真っ只中にあると思います。
こうしたボイスボットの分野は、まだまだブルーオーシャンといっていい分野です。でも数年後には、AIから電話がかかってくるのが当たり前になっているだろうと想像しています。
ここ数年の流れを見ていると、新しいテクノロジーは、わずか2、3年程度で広がっていきます。2021年が『ボイスボット元年』ともいわれていますので、2023〜24年にはさまざまな業界でAI電話の利用が進んでいるのではないでしょうか。もうAIから電話がかかってきても、何ら不思議じゃない世界が、近くに来ているかもしれませんね」

私たちの知らないうちに、さまざまな分野で活躍しているAI。ともすると冷たく無機的に感じられるが、『ユニボ』のような外見なら老若男女に受け入れてもらえるに違いない。生活の場を作る建設・内装業界にとっても、こうした世の中の変化を頭に入れておく必要がありそうだ。

取材協力

ユニロボット株式会社

2014年8月に創業。コミュニケーション・テクノロジーのプラットフォームを目指し、AI、ソフトウェア、ハードウェアの開発を手がける。コミュニケーションロボット「ユニボ」と、ユニロボットクラウドサービスを展開。

酒井 拓 氏

代表取締役

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