天井崩落につながるナットの緩みを小さな“ばね”が防ぐ

株式会社アドバネクス

販売促進部 部長

大西 宏和氏

ナットばね耐震金属加工

東日本大震災や熊本地震などで天井崩落事故が相次いだこともあり、天井耐震化への認識は徐々に広がりつつある。とくに多くの人が集まる大型施設への対策は急務だが、これにひと役買っているのが、精密ばねのトップメーカーである株式会社アドバネクスだ。誰でもワンタッチで装着できるナット脱落防止スプリング「インスタントロック」を開発、崩落の要因となるナットの緩みを未然に防ぐ。JACCAの推奨部材にも認定された「インスタントロック」の開発経緯、そして今後の展望などについて、販売促進部部長の大西宏和さんにお話を伺った。

NHKの放送をきっかけに
軽量天井向けの製品を開発

精密ばねのトップメーカーとして、自動車、OA機器、精密機器などの部品を手がけてきたアドバネクス社。オリジナル製品の「インスタントロック」は2019年に発売され、毎年少しずつ販売実績を伸ばしているという状況だ。まずは「インスタントロック」の特長や、開発の経緯について伺ってみたい。

「吊りボルトの下から差し込んで簡単に取り付け、取り外しができるナットの脱落防止スプリングが『インスタントロック』です。洗濯バサミのように片手で扱えて、特別な技術や工具も一切不要です。現在のところ、全国の施設やホールなどのリニューアル工事、改修工事を中心に使われています。開発のきっかけは、2018年3月に放送されたNHKの『おはよう日本』でした。東日本大震災での天井崩落事故とその対策を扱った内容で、避難所となるべきホールや講堂などの天井がかなり崩落していたことを知りました。その多くが天井を支えるナットの脱落に起因しており、これは私たちが役に立てるのではないかと、番組でも紹介されていたJACCAさんに連絡を取ったのです」

それから10日後には、JACCAから紹介された桐井製作所と具体的な相談を始めたという大西さん。当初は既存のボルト・ナット脱落防止スプリング「ロックワン」が使えると考えていたそうだが、そこには大きな誤算があったようだ。

「お話を聞くと、軽天屋さんの場合はボルトの余長が通常より長いということでした。『ロックワン』という製品は回転させながら取り付ける必要があり、鉄道などの現場ではインパクトレンチなどで比較的簡単に取り付けられますが、それを手でやろうと思うとかなり大変な作業になってしまいます。とても何千個も取り付けられないわけですね。そこで、もっとワンタッチで装着できる脱落防止スプリングを開発できないかという話になり、『インスタントロック』の開発に至りました。振動試験では、シングルナットはもちろん、脱落防止効果のあるダブルナットも脱落してしまいますが、『インスタントロック』はまったく問題なしでした。また、実際に天井を支えるハンガーに取り付けた状態で試験を行なってみたところ、こちらもクリアしました。振動試験はNAS3350規格に準拠して行われ、20Gという振動加速度で3万回サイクル、時間にして約17分行い、360度回転しないこと、というルールがあります。同じルールで試験した『ロックワン』は発売から7年経っており、累計で350万個くらい供給していますが、これまで緩んだという報告は1件もありません。ただ難しいのは、振動試験にはパスしても、装着性が悪いとか、調整で入れ直す際に手間がかかるとか、そういった課題もクリアしなければなりませんから、そのバランスが苦労したところですね」

左:InstantLock 右:LockOne

ミリサイズの開発により
さらに用途が広がる

現在のところ、内装施工業における「インスタントロック」の販売は、桐井製作所に一任しているという。販路の拡大を含めた今後の展望は、どのようにお考えだろうか。

「2020年は建築・建材展がありませんでしたが、今年は11月24日から鉄道技術展があり、そこに『インスタントロック』を置かせていただくことになっています。また、来年3月の建築・建材展にも展示させていただく予定です。JACCAさんのお話を伺っていても、現場には海外からの技能実習生や短期労働者の方も多くいらっしゃるということなので、経験や技術に左右されず、誰でも簡単に装着できる製品の開発は引き続き必要だと思います。弊社では現在、より簡単に扱えるスライドタイプの製品開発を進めているところです。また、軽量天井以外の地震対策も必要ですね。軽天の場合は主に3分(サンブ)、あるいは4分(ヨンブ)のサイズですが、いまミリサイズの『インスタントロック』の開発を進めています。m10、m12 の開発はすでに終え、m8も近々終えられると思います。これらを鉄道、道路、建築、それから太陽光パネルの架台といったインフラ向けに供給できればと考えています。一番早く広がりそうなのは太陽光パネルかもしれませんね。再生可能エネルギーの導入を促す改正FIT法ができ、施設の定期点検が義務化されました。それにより『インスタントロック』の導入も進むのではないかと期待しています。いずれにしろ、色々なお客様に選んでいただけるように、製品の選択肢を増やしていく必要があると考えています」

地震大国の日本で
メーカーとしてできること

首都直下地震や南海トラフ地震なども想定される中、メーカーであるアドバネクス社の立場から、できることにはどんなことがあるのだろうか。

「現在『インスタントロック』は、主に桐井製作所の耐風圧天井『TOBAN』に使っていただいているのですが、まだどうしてもオプション扱いになっています。これが標準の扱いになっていけば、より普及も進むのかなと思っています。また、現在はJACCAさんの保証制度の必須部品に採用していただき、施工研修会などでも推奨していただいています。そうしたことが後押しになって、数年後にはもう少し増えていくだろうと期待しています。天井工事の場合、1平米につき1.5個の『インスタントロック』を使う計算になるそうですが、価格的にはそれほど大きな負担にならないと思います。実際、リニューアル工事だけでなく、新築物件に採用していただくケースも徐々に増えていますから。総合的な地震対策は、私たち部品メーカーだけではできません。JACCAさんをはじめ、色々な方と協力しながら、私たちも何かお手伝いできればと思います。そのためにも、より簡単に装着できる脱落防止金具を作っていくなど、メーカーとしてできることを考えていきたいですね」

発売から2年半の「インスタントロック」は、まだ広く知られた存在とはいえないかもしれない。だが、これからの建設業界、ひいては日本社会にとって、役に立つ製品であることは間違いないだろう。設計士や工事店の方々にもその存在を知っていただき、お客様に「こういうものがありますよ」とご提案いただくのが、普及の近道といえそうだ。

取材協力

株式会社アドバネクス

1946年11月創立。「ばね」をはじめとする精密金属加工の大手メーカー。ノウハウと匠の技を駆使し、自動車部品を中心とした幅広いニーズに応える。

大西 宏和氏

販売促進部 部長

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