いざという時に備える天井耐震診断という仕事

ナカニシ住建株式会社

代表取締役社長/JACCA天井耐震診断士

仲西 一憲氏

天井耐震現場作業耐震診断

広島県呉市を拠点に、内装工事を中心とした建築業全般に携わっているナカニシ住建株式会社。社長の仲西一憲さんは、8年前にJACCA天井耐震診断士の資格を取得し、以来多くの天井を診断してきたベテランだ。そこで今回は、天井耐震診断の仕事について、詳しいお話を伺った。

本業の内装工事業にも好影響がある

まずは仲西さんがJACCA天井耐震診断士の資格を取得した経緯を教えていただこう。
資格を取ったのは8年前です。当社は鉄道関連の仕事が多いのですが、ちょうどその頃に天井耐震対策工事の案件をいただきました。元請け業者の方から、天井耐震診断の資格を取ってきてほしいといわれまして、急遽、JACCAさんの講習会に参加したという経緯です。タイミングの問題で沖縄まで行かなければならなかったのですが、今となっては、あの時に取っておいてよかったと思いますね」

年1回ほどのペースで、主に中国地方における大型施設の天井診断業務を担当してきた仲西さん。その経験は、ふだんのお仕事にも役立っているのだろうか。
「本業である内装工事の仕事にも、プラスアルファの影響がありました。天井診断をすることで建物のメカニズムといいますか、“こうしてはいけない”とか“こうするべき”ということがわかってきます。破損・損傷している天井を見て、『どういう施工をしてこうなったのか』ということを考えます。その原因と対処法をしっかり考え、自分たちの手がける現場施工に反映しています。たとえば、振動が発生する機械のまわりでは、ナットなどの緩みや脱落が多くなります。そういう箇所はバネのワッシャーを使って緩まないようにするといったことですね。
また、古い建物など、これまで工事でやったことのない構造・形状の天井を見ることができるので、それもすごく勉強になります。軽天工事の職長さんなどと一緒に見てまわるので、お互いの勉強になっていると思います。現場で気づいた点は、下請けの方も含めて全員が把握するようにしていますね。いまは口頭で説明するだけでしたが、今後は動画なども活用して、より安全な天井を作っていきたいと思っています」

作業を円滑に進めるプロの心得とは

診断士として現場に入る際は、どんなことを心がけ、どんな準備をしているのだろうか。

「一番は忘れ物をしないことですね。足場の段取りもしていただいていますし、商業施設などは夜中の作業になることもあります。私が忘れ物をしたら作業ができず、関係者に多大な迷惑をかけることになってしまいます。事前の準備としては、JACCAの事務局から建物の配置図や構造概要の図面、書類などが届くので、診断箇所ごとの報告書のフォーマットを作成しておきます。そして現場に入る前に、必要な道具や計測器などを用意します。とくにカメラのバッテリーが重要で、必ず複数用意するようにしています。
こうした準備を現場に入る2日前から行っています。JACCAのマニュアルにすべて書いてありますので、それ以外に必要なものはないのですが、個人的に実践しているのは、バッテリーを複数もっていくことと、予備のカメラを用意しておくということですね。カメラは壊れにくいものを使ってはいますが、いざという時のために予備を用意しています」

現場を調査する上で、とくに注意している点は何だろうか。

「まずは怪我をしないことです。足場に上がったり、天井内に潜ったりして作業するのですが、ちょっとした金物などで怪我することもありますから、十分に気をつけています。二番目はカメラを壊さないことですね。カメラを壊してしまうと、そこで調査がストップになってしまいます。三番目は、写真をきちんと撮ることです。適当に撮ってしまうと、後で報告書を作成する時に苦労するんです。ひとつの点検で100枚から150枚、多い時は300枚の写真を撮りますが、事前に用意しておいた帳票に1枚ごとに丁寧に記入しています。
また、診断の対象外であっても、たとえば天井内のダクトが脱落しているなど、危険なところがあれば報告書に書くようにしています。それから、注意というわけではないのですが、高さが十数メートルの天井を見る場合など、けっこう大掛かりな足場を組むこともありますので、足場屋さんには敬意を払い、必ず感謝を伝えるようにしていますね」

天井の耐震性は本当に大丈夫?

実際に大地震が起きた時、大型施設などの天井が崩落するケースは決して少なくない。いろいろな天井を見てきた仲西さんの経験から、やはり危険なケースは多いのだろうか。

「私は広島県なのですが、このあたりは比較的地震が少ないこともあり、耐震の意識はあまり高くないように感じます。あるいは意識はあっても、対策を実行に移す人が少ないのかもしれませんね。私が見てきたのは全体のごく一部ですが、そこから推測すると、ほとんどが大地震で壊れる可能性のある天井という印象です。そういう意味では、地震の多い地域とはまた違う雰囲気なのかもしれません。もちろん広島県や山口県でも、自治体によっては非常に熱心に取り組んでいらっしゃる地域もあります」

これからJACCA天井耐震診断士の資格を取ってみたいという方へ、何かアドバイスはあるだろうか。

「私はもともと建築業が専門なので、自分では詳しいつもりでいましたが、やはり現場を見なければ学べないことは多いですね。資格を取っただけでは意味がないので、どれだけ現場に入れるかが大事です。今から始める方も、まずは経験者と一緒に現場に入るのが一番かなと思います。私の場合は8年前に資格を取り、JACCAさんから耐震診断の仕事依頼をいただきました。


また、定期的に講習も開催されていますので、それには必ず参加するようにしています。ただ、診断の件数が多いわけではないので、これを生業にするのは難しいと思います。先ほども申し上げたとおり、あくまでプラスアルファと考えた方がいいと思いますが、本業のプラスになるのは間違いありませんね」

現在、全国で600名を超えるJACCA天井耐震診断士が活躍している。いずれやってくる大地震への備えとして、今後ますます必要とされるスペシャリストといえるだろう。本業のスキルアップも視野に入れながら、ライセンスの取得を目指してみるのもよさそうだ。

取材協力

ナカニシ住建株式会社

2004年、広島県呉市で創業。内装工事を主として、建築関係全般の工事業および建築士事務所を兼ねている。JACCA天井耐震診断士の資格をもち、天井診断業務の実績も多数。

仲西 一憲氏

代表取締役社長/JACCA天井耐震診断士

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