進化した小型ドローンが建設業界の未来を拓く

株式会社Liberaware

代表取締役 CEO

閔 弘圭氏

ドローン設備点検

建設現場におけるドローンの活用事例も増える中、独自の小型化技術で注目されているのが、株式会社Liberawareが開発した「IBIS(アイビス)」だ。狭い天井裏や床下にも難なく入りこみ、クリアな映像を提供する小型ドローンは、今後ますます需要が拡大していくに違いない。代表取締役 CEOの閔 弘圭さん、事業戦略室の林 昂平さんのおふたりに、製品の特徴や活用例、今後の見通しなどについてお話を伺った。

左:林 昂平さん 右:閔 弘圭さん

現場での経験を積み重ね、
実用的な技術を自社開発

すでにさまざまなタイプのドローンが実用化されているが、「IBIS」と他社製品との違いはどこにあるのだろうか。

「私たちのドローンは産業用にアップデートされています。もちろん産業用ドローンにも色々ありますが、機能をたくさん付けているぶん、どうしても大きくなりがち。当社のサイズで産業用として勝負している会社は、実は他にないんですよ。ドローン全体として見ればもっと小さいものもありますが、産業用としては当社が世界最小といっていいと思います。他社製品との違いは色々ありますが、まずは部品そのものですね。たとえばモーター。一般的なドローンに使われるアウターモーターは、中のコイルが露出していて、そこから熱を逃す仕組みになっています。たとえば、そのモーターを使ったドローンを製鉄会社さんの現場で飛ばすと、鉄粉が中に入ってしまい、コイルが焼けてしまうんですね。市販品では無理なので、自社開発するしかないということで、日本電産さんと共同で防塵モーターを作りました。それ以外にも、暗所に対応したカメラなども自社製ですし、そういったところが他社との大きな違いになっています。また、サイズに関してもピンポイントで狙っています。ドローンは基本的に、大きさと重量によって飛行可能時間が決まってきます。バッテリー性能に限界があるので、小さくすればするほど飛ぶ時間が短くなってしまうんです。そうした制約の中で、ちょうどいいサイズ感で、いかに最大値を出せるかというのが、我々がチャレンジしている部分です。弊社のドローンはだいたい8分くらい飛べますが、それだけあれば、ほとんどの現場ですべて撮影可能です。また、単純に小さければいいというわけでもありません。オモチャのドローンが壁に近づくと、上から風を吸い込んでスッと壁にくっついてしまうんですが、当社のドローンはそれを避ける制御をします。そのあたり、本当に現場で使うための技術的要素を重点的に開発している点が、一般的なドローンとの違いになっています。ただ、実際に現場で飛ばしてみないとわからないことも多いんですよね。この“壁に吸い付いてしまう”ケースも、実際に天井裏で飛ばした時に、そうなって取れなくなってしまったことがありました。そういう経験の中から、どんな制御が必要なのか、実用的な技術を抽出しています」

 
そもそもなぜ小型化を目指したのでしょうか。

「当社を起業する前のことですが、東日本大震災が起き、原発内部を調査する国のプロジェクトに参加したことがあります。当時はまだ技術的な限界があり、開発していた機体も直径が1mくらいになってしまいました。それが設備の中で飛ぶとなると、ものすごい風が発生するわけです。各種センサーやカメラもたくさん搭載しますから、重さも10kgくらいありましたね。研究という意味では着地点に辿り着けたのですが、これでは室内で実用化するのは厳しいな、と。きちんと使えるものにするには、もっと小さくしなければならなかったのです。起業してからも、狭いところを飛ばしたいというお客様からの要望が多く、本格的に小型ドローンの開発に着手しました」

ますます広がっていく
小型ドローンの活用例

現在はどんなところで「IBIS」が使われていますか?

「これまで200件くらいの実例があり、最近は点検作業などが増えてきました。一番多いのは製鉄会社さんですね。熱処理系の設備など、縦に長くて狭い空間が多く、普段は人が登って点検しなければなりません。やはり事故などのリスクもあるので、もっと手軽に作業できないかということで、私たちにピンポイントでご依頼いただきました」

建設・内装関連で活用されるケースには、どんなものがありますか?

「ゼネコンさんからのお話は結構いただいていますね。鉄道会社さんとはジョイントベンチャーを立ち上げて、鉄道関係の設備、天井の点検作業などをしています。地震への不安もある中で、やはり皆さん「耐震性は大丈夫なの?」と思われている状況ですから、ニーズは確実に高まっていると感じています。実作業のニーズは大きく3つあります。1つめは、天井裏に入れてコンクリートを見たいというケースです。コンクリートにボルトを打ちこんでいるので、それがちゃんと付いているか、劣化してヒビが入っていないかといったことを見たいということですね。2つめは、中のボルトの位置が図面通りになっていないことが多いので、それが実際にどうなっているか。いわゆる測量的な使われ方です。3つめは、天井裏に野生動物がいるのかの確認ですね。これは我々が見てもわからないのですが、非常に狭いところにドローンを入れて、専門家の方に画面を見ていただくと、動物の足跡があるのがわかります。そうやって足跡の数や通り道を確認し、罠を設置するわけです。これが意外に多いケースで、人が天井裏に入ってみても、すごく狭いのでわからないんですね」

ドローンによる天井裏の点検は、まだJACCAが求める基準には達していないものの、いずれテクノロジーが人間に追いつく日も来るのかもしれない。

「どんな天井かにもよると思いますが、わりと広い特定天井は人が入れますが、駅の天井などは人が入れる大きさではありません。懸念されるポイントがいくつかあるので、そこをドローンで見てきてほしいということはあると思います。もちろん最終的に修繕が必要となれば、人間が入らなければなりません。その前の段階、一次スクリーニングとしてドローンが入るとか、現場との関わり方も少しずつ変わっていくのではないでしょうか。そしてドローンの技術が進化していけば、できる領域も少しずつ広がっていくのかなと思います。以前、鉄道系の現場で試したのは、点検の確認作業をする方が遠隔にいて、ドローンが撮った映像を見ながら適切な判断・指示ができるのかということです。実際にやってみた結果、触らずに確認できる項目に関しては『だいたいできる』という評価でした。0.1mmのクラックを見つけるようなことは、さすがに映像では難しいですが、最終的にはそこもAIを活用してうまくやっていきたいと考えています。すでに5GやAIを活用したお話も来ていますし、いずれは人がやっていた作業をドローンができるようになる時代が来るのではないかと思っています」

 

「日頃の点検としてドローンを使っていただいている製鉄会社のようなケースでは、すでに人間による点検と同等以上の成果を出しています。建設関係に関しては、まだ始まったばかりで、これまでのやり方をどう変えていくことができるのか、今まさに評価している段階だと思います。鉄道の駅舎もそうですが、今まで人が入れず、見られなかった場所を見たいというニーズは少しずつ出てきています。そういった『見る』ということに関しては非常に実用的ですが、これが『点検』ということになると、また別の話になってきます。ただ、それを繰り返していくことで、少しずつ定着していくのかなと思います」

「老朽化している設備など、今はまだ見えていないところで、いずれ大きなメンテナスをする必要があるものが、今後次々に顕在化してくると考えています。また、足場を作る必要がある高所でもドローンは使えますので、鳶職の方が減ってくる、コストが上がってくるという中で、うまく活用していただけるケースも増えると思います。まだ研究開発のフェイズではありますが、いつか必ず顕在化してくる部分なので、我々としても着々と必要な準備を進めているところです。案件が増えればコストも下がりますから、そこで一気に導入例が増えてくると思っています」

ドローンが日常的な存在になる社会

「Liberaware」が小型ドローンとともに描く未来は、どんなものになるのだろうか。

「たとえば、地方の工務店・工事店の方がドローンを持って、各家の床下や天井裏を点検して回る。そんな風に、ひとつの工具として使ってもらえる世界観を目指しているんです。会社の作業着を着て、腰にドローンをぶら下げて歩いているようなイメージです。そのくらい日常的になれば嬉しいですね。以前ハウスメーカーさんとお話していて、私たちも天井裏に入ったことがあるのですが、真夏の天井や床下はものすごく暑い。そういうところで気軽にドローンを使いたいという考えはあるものの、今はまだコストが合わないということでした。それも事実ですので、やはりもっと広めていって、コスト感を安定させていきたいと思います」

「目指しているところは、ドローンそのものというより、出てきたデータをどう活用していくかです。当社ではドローンによって出てきたデータを三次元化し、それをクラウドでシェアしていくということも行っています。本当に取り組んでいるのは、実はそちらなんですね。建物が三次元化されると、どう改善するか、維持するかといった応用に繋がります。データを取ることが当たり前になり、それを前提に建物の設計や維持が行われる社会。私たちが生活している裏側で、ドローンが自動で飛んでいて、知らないうちに社会を支えているという世界観を目指しています。ドローンを通して見るのはミクロな空間ですが、スマートシティといった大きなものに貢献したい。そんな想いをもっています」

社会のあらゆるシーンで、すでに欠かせない技術になりつつあるドローン。建設・内装業界における活用事例も、今後ますます増えていくはずだ。なかでも「Liberaware」の小型ドローンは、信頼性、操作性などあらゆる面で注目すべき存在といえそうだ。

取材協力

株式会社Liberaware

2016年に創業。屋内空間専用の産業小型ドローン「IBIS(アイビス)」を開発し、製鉄業、電力業、建設業における設備点検のためのドローン撮影、構造物のデータ化などを手がける。

閔 弘圭氏

代表取締役 CEO

林 昂平氏

事業戦略室

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