内装業に特化したソフトで積算や見積書作成の時間や手間を大幅に短縮

ITS工房株式会社

代表取締役社長

中嶌 弘慈氏

DX建築業界業務効率化

建設業界向けのデジタルツールは数多いが、内装業に特化したものとなると少し珍しい。何千にものぼる内装工事の項目を網羅し、積算拾いや見積書の作成といった面倒な作業を自動化。そんな画期的な業務効率化システムで注目されているのが、千葉県に拠点を構えるITS工房株式会社だ。手がけているのは、見積り・原価把握ソフト「It’s営業部長II」や、内装積算ソフト「It’s積算部長II」、出来高数量管理システム「出来タッチ」など多岐にわたる。今回はその中で、ITS工房の本業である内装積算に特化した「It’s積算部長II」を中心に、代表取締役社長の中嶌弘慈さん、常務取締役の鈴木 晴さん、営業部部長の松井雄司さんにお話を伺った。

積算のプロが作った業務効率化ソフト

ITS工房はもともと内装積算の代行を行なう会社。いわば“本業”をソフト化して販売したことになるが、どのような経緯でソフトウェア開発に乗り出したのか気になるところだ。まずはその前に、中嶌社長に社名の由来や会社の業務内容についてお話しいただいた。

「当社は内装業に特化した色々なサービスを行っていまして、図面から数量を拾う積算の業務を代行したり、さらにそれを業務効率化するためのソフトウェア開発を行ったりということをしています。また、ソフトをご購入いただいたお客様に向けたセミナーや講習会を開催し、技術支援や社員教育のサポートも行っています。ITS工房という社名は『インテリア・トータル・サポート』の略が本来の意味なのですが、『アイティーエス』ならアルファベット順の時に一番はじめになりますよね。また海外への進出も考えていますので、『ITS』なら後から何とでも意味がつけられます。もうひとつ、実は英語の『IT’S』にも掛けていまして、当社のソフトのシリーズ名にもなっています」

ITS工房の大きな特徴として、内装業者の業務を熟知したソフトウェア開発が挙げられる。どのように現場のニーズを把握し、ソフト開発につなげているのだろうか。(なお、中嶌社長は所用のため退出され、以降のご回答は鈴木さん、松井さんによるもの)

「社長の中嶌も工事会社に30年近くいましたし、他の社員にも工事店経験者がおり、煩雑な事務作業が多いことをよく知っています。むしろ私たちは、あらかじめ図面を積算して予算を組む、というのが当たり前と思ってきました。ですが、中にはきちんとやれていない会社もあり、しっかりやるべきということを講習やセミナーなどでもお伝えしています。それでも難しい場合は代行しましょう、というところから当社が発展してきました。そうした過去の実績と、積算代行を通したリアルな情報を取り入れ、ソフト開発につなげています」

内装業に特化したものも含め、積算ソフトそのものは他社からも発売されている。その中で、「It’s積算部長II」をはじめとしたITS工房のソフトは、どこが違うのだろうか。

「たとえば集計表ですが、当社のソフトは工事種目ごとに勝手に仕分けされ、天井や壁などの部位もすべて、あらかじめマスタが入っています。きちんと仕分けされた集計表が自動で出てくるんですね。一般的なソフトの考え方は、図面から拾ったデータがCSVという数字の羅列で出て、あとはそのデータを好きに使ってください、という形になっています。当社の場合は、データを整理して言語化するところまで自動でできますので、非常にわかりやすいですし、間違いなく仕事量を減らすことができます。そこをご理解いただければ、導入費用の面もご納得いただけるのかなと思っています。いま全国で400社くらいに当社のシステムを導入いただいています。全室協(全国建設室内工事事業協会)の会員企業が800社弱ですが、それと比べるとわかりやすいかもしれません。もちろんお客様のすべてが全室協の会員というわけではありませんが」

「弊社の製品に出来高数量管理システムの『出来タッチ』といものがあるのですが、これは毎月の出来高を請求する際、どこまでやったかというのをすべて色分けして、しっかりとした数量根拠を出せるというものです。この業務をもっと簡単にできないかということで、タブレット上で終わった箇所をタッチするだけで自動的に集計できる『出来タッチ』を作ったわけです。そしてタブレットに図面を埋めこんで、どこをどう積算したかわかるようにするためのソフトが『It’s積算部長II』になります。ですからもともとの話としては『出来タッチ』の方が先なんですね。そうしたソフトを販売することで、当社が行っている積算代行の業務が減ってしまうのではないかという懸念も、当然ながらありました。ところが結果は逆で、このソフトを使って効率化することで、きちんと積算をするべきという認識が広まり、どうしても拾いきれないものについての依頼が増えました。当社で拾ったデータをそのままお返しすることもでき、ソフト同士で共有できますから、相乗効果も生まれています」

※積算部長

システム導入のコスト感をどう克服していくか

きちんとやるほど時間がかかる積算の作業。時間がないから、手間だからという理由で曖昧にしてしまうと、業務の無駄が多くなり、結果として利益も上がらないということになってしまう。とはいえ、多くの中小企業にとって、高額なシステム導入は難しいというのが実情だろう。そのあたりはどうお考えなのだろうか。

「弊社のソフトの導入費用は、だいたい50万〜100万です。一般的な工事店さんからすると、初期導入負担としては大きく感じられると思います。でも実はそうともいえなくて、今まですべて手でやっていた作業をそのままソフト化しているので、ほぼドンピシャで使えるものになっているはずです。ですから、ある程度きちんとご説明して、実際に画面上で見ていただければ、必ずご納得していただけると考えています。積算でいえば、仕事量がおよそ1/2から1/3になるはずです。これまでは社員の方が残業したり、休日出勤したり、家に持ち帰ったりして行なっていたケースが多いと思いますが、そういうことでは若い人も入ってきにくい時代ですし、雇用の仕組みとしてもちょっと問題がありますよね。このソフトを導入することで、そうした問題を大きく減らすことができると思います」

「先進的なデジタル技術がどんどん出てきますが、導入しているのは大手の企業や設計事務所などが中心で、実際の施工を行っている工事会社は、なかなかそこまで投資できる状況ではないことが多いですよね。完全に二極化というか、デジタル格差が進んでいる状況だと思います。ただ、積算については、だいぶ状況も変わってきています。基本的にはまず設計図があり、それを元にゼネコンさんが受注するという流れですが、実際はその後に施主さんからの要望なども取り入れますし、製作物などの各種取合いなども考慮して現場で施工図を作るケースがほとんどで、最初の設計図とは変化していきます。ただ、受注時は原設計の数量と単価で契約していますから、きちんと積算しないと、ものすごい食い違いが出てきてしまうことが多々あります。なおかつ最近は、数量根拠のないものにはお金が出せないという部分が、昔に比べて厳格化しています。ゼネコンさんとしても、原設計と変わっていますから、施主に対して追加精算をしなければなりません。ところが、その根拠となる数字が曖昧では、きちんと追加精算できませんよね。そうした状況ですから、何よりも数量根拠を明確に出すということが重要になってきています。施工業者さんとしては、せっかく仕事をしても、適切な施工数量による精算ができず、予定していた利益が出ないということにもなりかねません。私たちとしては、そうした資料を出す重要性も訴えていきたいと考えており、ソフトの体験・説明会や講習会などの使い方の支援だけではなく、そもそも図面を見る能力がなければ積算ができませんので、年2回ほど積算講習というものも実施しています」

「いまは多くの会社で1人1台パソコンがあり、さらにスマホも持っているという時代ですから、これまでのように一括でシステムを導入いただくやり方ではなく、サブスクリプション(月額制)にしていくということも考えられます。工事会社さんも世代交代していますから、そういう考えの方も増えていますね。当社のソフトは同シリーズでデータ連動するのですが、今後はそれを全自動でオンライン化したり、スマホと連動させたり、そういったことも計画しています。月額制にすることで、イニシャルコストの負担感を減らすことができ、利用者増に繋がる可能性があると考えています」

「また現在は中小企業向けのIT導入補助金の仕組みがあり、当社のソフトを購入するお客様に関しても、申請が通れば1/2から2/3の金額が返ってくるケースがあります。手続きの際に事業計画書を提出する必要があるなど、少し手間はかかりますが、それも当社が無償でお手伝いしています。使わなければもったいないと思うのですが、この制度の認知度がまだまだ低い。もっとそうした情報を知っていただく場があるといいですよね」

業務の“見える化”で誰もが働きやすい環境に

軽天工事などは部材の種類が非常に多く、どの部材をどのくらい使うかを判断するために、ある程度の経験値が必要になってくる。デジタル技術による業務効率化を進めることで、こうした状況にも変化が出てくるのかもしれない。

「当社の『It’s営業部長II』には、何千もの見積項目が入っています。部位の名称といった言葉のリストもすべて入っていて、さらに単価設定や標準的なロス率なども入っていますから、見よう見まねで触っているうちに仕事を覚えるという効果もあります。若い人たちの場合、ソフトを使うことに関しては抵抗感がないですからね。実際、そういった形で社員教育に活用されている企業も少なくありません」

「内装工事の現場では、まだまだアナログな業務はたくさんあると思います。これまで手作業でやっていたものをデジタル化していくことで、誰がやってもわかる仕事にしていく必要があると思っています。従来は図面に自分なりにメモ書きして、寸法を記入したり、マーカーで色をつけたりということをしていましたが、それでは誰かに作業を引き継ごうとしても、なかなか難しいところがありました。それがソフトを使うことで“見える”ようになり、引き継ぎや分担がスムーズにできるようになります。工事担当者がすべて自分でやっていたことを、誰かに任せたり、分担したりできるわけです。いまはそのためのツールもなく、任せられる人を教育する仕組みもないという状況です。こうしたことを変えていくためには、誰が見てもわかるように、まずは“見える化”していくことが必要だと思います。工事会社で働く方々も、現場に向いている人もいれば、事務的な作業が向いている人もいるはずです。仕事をうまく分担することで、そうした人材も生きてくるのではないでしょうか。いまは人手不足ですから、工事がわかるベテランを募集しても、なかなか見つかりません。かといって若者を雇用して育てようと考えても、なかなか興味をもってもらえない状況でもあります。誰もが働きやすく、魅力のある環境を作っていくには、やはり仕事を効率化していくしかないと思っています」

※営業部長

業務効率化を進めたい工事店経営者にとって、実際に“使える”デジタル技術の導入は大きな課題だ。そのひとつのソリューションとして、多くの導入実績があるITS工房のソフトを検討するのもいいかもしれない。魅力ある職場づくりのためにも、もはや避けて通れない時代になっているのは間違いない。

取材協力

ITS工房株式会社

2000年12月設立。建築工事業務に精通し、効率的な業務改善を提案する建設総合コンサルタント。建築内装工事に特化した積算代行、ソフト開発・販売、社員教育・講演などのサービスを提供。

中嶌 弘慈氏

代表取締役社長

鈴木 晴氏

常務取締役

松井 雄司氏

営業部部長

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