天井耐震診断士に聞く 現場での工夫と心構え

信和ホームズ株式会社

主任・天井耐震診断士

中宮 俊介氏

天井天井耐震天井耐震診断士

神奈川県横浜市を中心に、内装工事全般の豊富な実績をもつ信和ホームズ株式会社。耐震天井のエキスパート集団でもあり、数多くの診断や施工を手がけてきた。その主任として施工管理を担当し、天井耐震診断士の資格をもつ中宮俊介さんに、天井耐震診断の仕事ぶりや心がけなどについてお話を伺った。

さまざまなタイプの天井を
見ることができるメリット

天井耐震診断士として、約10年のキャリアをもつ中宮さん。これまでにどんな仕事に関わられたのだろうか。また、どんな経緯で資格を取得されたのだろうか。

「神奈川県を中心に、都内を含む学校、文化ホール、映画館、オフィスビルなどの天井耐震診断を手がけてきました。最初に携わったのが2012年で、それから25件ほどの診断をさせていただきました。一番多い年で年間13件ですね。資格を取ったのが2011年の4月ですから、ちょうど認定制度が始まったタイミングです。
私は2011年に中途採用で入社したのですが、その頃にはすでに軽量ボード、耐震天井などに関しての社内勉強会が行われていました。そこで社長から『みんなで資格を取ろうよ』ということで、受講資格のある社員は全員、天井耐震診断士の講座を受講しました。すでに退社された方もいますので、現在は私を含め2名が資格をもっています」

天井耐震診断の仕事をして、よかったのはどんなことだろうか。

「診断士として色々な物件を見させていただきますので、それがいいところですね。自分では施工をしたことがないような特殊な天井ですとか、教科書ではなかなか理解できないものを実際に見られるので、すごく勉強になります。
例えば、某デベロッパーさんの物件をいくつも見させていただいたことがあります。下から見ていると『どうやって作っているのだろう』と思うのですが、その後に天井裏を見せていただくと、なるほどと思う部分が多かったです。完全な吊り天井ではなく、構造体を含めて練りに練った天井になっていました。おそらく素人の方が見ても感動されるような天井裏です」

すべては準備で決まる
一発勝負の現場

天井の診断をするときに大事にされていることは何だろうか。

まずは準備がすごく大事だと思います。資格制度が始まった当初は、物件ごとにしっかりと報告書の下準備をしていかないと、現地ですごく困りました。もちろん報告書のフォーマットも年々改訂され、今ではすごく作成しやすいものになっています。とはいえ、とくに写真は準備を含めて注意しないといけません。どんなにしっかり診断したとしても、きちんとした写真を添付できないと依頼主に伝わりませんから。
私も現場では少し高級な広角カメラを使っています。じつは最初に携わった2012年の時は、普通のデジカメを持っていったんです。広角じゃないので、伝えたい部分が一枚の写真に収まらない。1カ所で何枚も撮るものですから、報告書に収まりきらないんです。報告書には一枚を選んで貼りますが、備考欄に追加の写真を何枚も貼ることになってしまいました。
あとは照明ですね。ストロボを焚くと、金属に反射してしまうんです。自分でちょうどいい角度に照明を設置して、ストロボを使わずに撮影するなど、毎回工夫しています。これも現場を経験してわかってきたことですね。
現地での診断というのは一発勝負なので、忘れ物はもってのほか。とにかく準備です。慎重な性格というのもありますが、しっかり準備するようにしています。準備というのは自分のことだけではなく、足場を組んでいただく方をはじめ、色々な人に迷惑をかけないように。そういうことを一番に考えています」

講習などで勉強した内容と、実際の現場との違いを感じることはないだろうか。

「耐震天井といっても、いまは色々な工法があります。その中で、JACCAさんと一緒にやっているものが正解だと自信をもって言えます。それくらいレベルが高いんです。設計書等に具体的な耐震の内容が書かれていないケースも多く、とくに改修工事の現場では想定外のことが起きるものです。そういうときに理想的な耐震施工の話をしても、『そううまくいかないよ』と考えてしまう方もまだまだ多い。そのギャップを埋めたいのですが、まだ時間がかかるのかなと実感します」

診断業務から施工に
繋がるケースも

これから天井耐震診断士の資格を取ろうと考えている方に、何かアドバイスはないだろうか。

「私は信和ホームズに入社する前も建築関係でしたから、もともと天井に関する知識はある方でした。でも診断士の立場になり、診断の現場や日々の施工管理における知識の幅がまったく変わりました。弊社にも独自の施工要領書があったり、施工する上で譲れない部分があったりしますが、その意味をきちんと理解して、職方さんなどにしっかり伝えられるようになったと思います。診断した物件でこんな例があった、こうしたからこうなった、といったことをきちんと説明できるのは、すごくいい部分だと思います。
弊社の職方さんは、ほとんどの人が耐震天井の施工の資格をもっています。年に何回か集まり、新しい部品の説明会や施工例の勉強会も開いています。そういう場所でも、診断した物件の具体的な話ができるのは、とても役立っていると思います。
診断の仕事をさせていただいて、そのままその物件の施工に繋がったケースもあります。また、名刺に肩書きがあるので、そこに興味をもって話を聞いていただくこともありました。資格を取得してマイナスな面はひとつもないと思います」

 

日本の建築物の耐震化は、プロの目にはどう映るのだろうか。

「私は地震で壊れてしまった天井も、残った天井も見ています。よく『これを完璧にやれば、震度6強を超える地震でも壊れないか』といったことを聞かれるのですが、それは返事ができないですよね。天井が大丈夫でも、建物が壊れることもあるわけですから。
3.11があり、その後に色々な天井の補強工事をやらせていただきましたが、少し揺れると気になって、お客様に電話して聞いてみるんです。今のところ『大丈夫、やってよかった』という声しか耳にしていないので、やってきたことは間違っていないと思っています。ただ、震度がいくつならどうかとなれば、答えようがないですよね。
実際に耐震工事をしても、これで天井は大丈夫だけど、このカーテンウォールは大丈夫か、この看板は大丈夫かなどと思うこともあります。お客様にもやんわりとお伝えするんですけれども……」

 

ふだん中宮さんが仕事をする上で、日々考えていることは何だろうか。

「私たちの仕事は、残るものを作ることです。工事中は毎日入れますが、お客様に引き渡した後は、もう中に入れません。その後の状況がわからないものを作って、対価をいただく仕事なんです。だから、何年後でも快適に使っていただけるものを作る。そのためにはまずルールを守ること。その上で知恵を出しあい、『ここはこう補強した方がいい』といった部分を突き詰めていく。そうやって、みんなで『いい物を作ろう』ということだと思います」

取材協力

信和ホームズ株式会社

1964年、神奈川県で創業。内装工事の専門業者として、大手ゼネコンからの委託業務やマンションのモデルルーム、店舗リニューアルなどを幅広く手がける。豊富な知識と経験、技術力をベースにした、使う人の立場に立った空間づくりに定評がある。天井耐震診断、木造耐火工事も手がけている。

中宮 俊介氏

主任・天井耐震診断士

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